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二次小説

SECONDARY NOVEL

海を見つめる千早、背景付き.jpg

スターラスターガール

~感応兵器・如月千早の夏休み~

                              


まえがき

 
スターラスターガールでは
動画本編で描かれているような
コミカルな日常や

SF宇宙戦闘描写に留まらず
いろいろな角度からオカミキ世界を

描いていけたらなと考えて
いくつかのネタを温めております。

『感応兵器・如月千早の夏休み』では

その中の
如月千早の弟『ユウ』

というキャラクターの視点を借りて
一般人という外部の視点から
もしあの世界に迷い込んで
彼女らをのぞき見たら
一体どのように見えるだろうか?
という部分を
ひと夏の不思議で不可解な体験として
描く事によって

帝国艦隊や
神道と感応操者というものの
神秘性を表現できたらなと
構想しているものです。

オカミキ本編では性や恋愛
思春期の心の揺れ動きについては
あえて無味乾燥
冗談めかして扱っておりますが
こちらではそのへんの情動にも
焦点を当てて
大人でも子供でもない年頃が経験する
風景を形にすることができればなと
考えています。










『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 01』

―ぼくの姉は性をお金に変えるのか―







姉が性をお金に変えている
というような内容の
差出人不明の手紙が僕あてに届いたのは
夏休みの直前だった。



 
数ヶ月前から姉は祖母と二人
僕ら家族とは離れて暮らしている
それまでぼくたちは、
特に仲がよいという姉弟なわけでもなく
ぼくももう小学校の終わりだったので
姉が出ていったあとも特に暮らしが
変わるということもなかった

その日までは。



ずっと真面目な姉だと思っていた

その手紙には証拠写真が同封されており
それは隠しカメラのビデオか何かから
プリントアウトされたもののようであり
非常に不鮮明なものでは

あったのだけれど

けれど・・・・・・

それはまぎれもなく

ぼくの姉のようにも見えた


服を着ていなくて

何者かに動物のように組み敷かれ、
汗で髪が頬に張り付いて

苦悶の表情を浮かべる姉の姿が
そこには写っていた
ぼくはドキドキしていた

 背中はくぐもった
得体の知れない熱を帯びて汗ばみ
のどがカラカラに渇いて
いつもの蝉しぐれが
非常サイレンの鳴り響くような
焦燥をかきたて
自分の部屋で制服のまま
為す術もなく立ちすくんだ。



「それはセックスだよ」

 次の日の昼休み
それとなく質問した僕に対して
クラスメイトのRは
こともなげにそう答えた

「その隠し撮り写真?
に写ってたという女の子は
セックスをしているんだよ」

3つの小学校から統合する中学で
一緒になったRは
今はもう寂れた
商業地域の繁華街に家があって
そういう知識に関しては
僕よりもずっと大人びて見えた

「まぁ、セックスといっても
いろんなプレイがあるからね
傍目には

苦しそうに見えるものもあるさ」

Rは腕組みをしながら

ニヤニヤと含み笑いをした。


―――そうなのだろうか


ぼくはどうしても

あの姉がそんな事をしているとは思えず
悶々と過ごしているうちに

短縮授業期間が終わり
とうとう夏休みに

姉のところを訪ねてみることにした。







『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 02』

―普通っぽい娘に気をつけろ!―






姉の住んでいる所は
はるか海岸線に巨大な製鉄所と
宇宙港が見える以外は
何の取り柄もないような
典型的な地方都市の
さらにその中心部から外れた
山と河と海とに挟まれている場所で

三宮の駅を出発して海を右手に見ながら
山際を走る列車に延々乗って
二度三度と
夏草に覆われたトンネルを抜けて
ようやくたどり着いた。


駅前も自転車預かり所と
鮮魚店があるくらいで
特にひらけているわけでもなく
その前の道も狭かった
そしていきなり
ガラの悪い少年2人にからまれた

今思うとなんと迂闊だっただろう
荷物を遠足のようにリュックに背負って
地図を見ながら駅から出てきて
不案内な様子で立っているなんて
あからさまによそ者だ。

しかもたった一人で立っている。

そんな身長150センチたらずな少年は、
地元のワルから見れば
どれだけ格好の

オモチャに見えただろう。

僕は2人の不良少年に
旧知の仲でもあるかのように

肩を組まれて
路地裏に連れて行かれ
「1000円貸してくれよ」と言われた。
 
僕は(ああカツアゲだ)と
当たり前のことを思い浮かべて
今の状況を

再認識しようとしていた。


なんで自分が

こんな目にあっているのか、
何かの冗談であって欲しいと願っていた
少年たちが急に笑いだして
「冗談だよ」と言ってくれるのを
少なからず期待していた。

きっとそういう展開になるんだろうと。

二人の少年は一人は
明らかに僕より背がずっと高く
170センチ以上はあって
大人と遜色がなかった
もうひとりは僕より一回り大きい
くらいの背丈だったが
育ちの悪さがそのまま顔に出ていた
浅黒い肌と細い目は
マンガで見かける”小悪党”を
リアルに小型にしたような
子供らしくないヒネた風貌だった。

そして手も早かった

うつむいたまま
嫌だと言おうとした僕の頬を
小柄な方の少年が
いきなりビンタした。

男の先生が悪さの過ぎた男子生徒を
呼び出してするように、
何の身の覚えのない僕の頬は、
さして年の変わらない
初対面の少年によって
平手打ちされたのだ

僕は先生に殴られる男子生徒を
何度も見ていたが
自分がそれをされるなんてことは
今まで一度もなかった。
みるみる目が充血して
ツーンと鼻の奥から
なんとも言えないニオイがして
熱くなった涙が
目頭から湧き出てきたのは、
ビンタの際にその少年の手が僕の鼻骨を
激しく打ったせいだけではない。

背の高い方の少年が
当たり前のように
僕の荷物に手をかけたが
ぼくは全力で身をよじって

その手を強引に振り払った。

すると今度はお腹を殴られた。

ドンッとお腹をされたとたん

お腹の中の組織がギュッと収縮して
苦痛で体が『くの字』に曲がって

息ができなくなる。

背の高い少年が

再びリュックに手をかけた
ファスナーの隙間から

宿題のノートやふでばこが
バラバラと地面に落ちたが
もう僕は抵抗する気が起きなかった。

もうどうしようもないと
ハッキリわかった
これ以上余計なマネをしちゃダメだ
ようやく自分の置かれた立場を

理解したとも言える。

いや最初からわかっていた
わかっていたけれど

ぼくのプライドがじゃましたんだ

(ばかやろう、
おまえがじゃましなければ

殴られずにすんだのに、
ばかやろう・・・。)

僕は自分の靴先を見ながら
自分で自分を責めていた
薄暗い路地には
鮮魚店が水を循環させるポンプの
ジーーーーっという音と
地中の排水路へと流れ落ちる
ピチャピチャという音だけが
かすかに響いていた

古びたコンクリートの塀や地面には
ところどころ
苔がこんもり生えていて
そこをサワガニが
ゆっくり歩いているのが見えた
そのサワガニが何かを察知して
急に早足になると
バンと音がして
不自然な格好で
背の高い少年が仰け反った

筋委縮症のように肩や手が硬直して
爪先立ち気味にエビ反りに仰け反って
顔は苦痛に歪んでいた
そしてそのまま背中に手を回す姿勢で
地面に膝をついて動かなくなった
苦痛の声を漏らしたいが
それすら出来ないと言った様子だった

崩れ落ちたその少年の後ろには
黒いリボンを髪の両側に付けた
オカッパの女子が悠然と立っていた
悠然と・・・

身長は160センチぐらい
いわゆる中肉中背の体つき
ちょうど姉と同じぐらいの年格好で
中学に上がったばかりの
早生まれの僕なんかより背は高いが
日本人の女子としては
至って平凡な体格だ
クラブ活動の帰りだろうか?
どこかの学校の夏服らしい
制服を着ている


だがなぜだろう
僕にはそれが捕虜収容所の
恐ろしい所長のように見えた
鞭をふるい、
絶対権力者として振る舞い
逆らう者には容赦しない
そういうものが現れたという
有無を言わさぬ圧倒的な気配が
一瞬でその場を支配した。

不良たちが醸していたその場の空気が
薄いガラスを
爆風がわけもなくうち破るように
粉々に砕け散らした

もうひとりの不良少年は
膝をついた少年とそのひとを見て
瞬時にすべてを察知したようだった。

『艦隊の・・・!』
という単語を発っすると
顔をこわばらせ言葉をつまらせる

 ”意気揚々と
脱走するトンネルを掘っていたら
その後ろに収容所の所長が立って
自分らを睥睨していた”

 ―――そう思わせる
凍りついた表情をしている。


そのひとは二人の少年を
知らない様子にもかかわらず
不良少年達は
そのひとを知っているようだった。

彼らは指先に至るまで萎縮し
身動き一つ出来ずに完全にその女子に
その後の処置を委ねた形になっている

女子が一歩踏み込むと
小柄な方の不良少年はビクッとして
無意識に肩をすくませかけた
僕がそう感じた瞬間には
女子のビンタが不良少年の
肩をすくませるのを上回るスピードで

顔の下半分を薙ぎ払っていた

よくある女の子が男に対して
ピシャりと叩く平手打ちなどではない
大相撲中継で

小兵の力士が巨漢の関取を
立会の一発で脳震盪させる
テッポウ気味の張り手のように

『バチッィィ』という
肉と皮と骨がぶつかる音とともに、
不良少年の顔面が
カクンと首を傾げるように折れ曲がり
足が意識外の動きをして
ヨロめいたのを目の当たりにした。

そしてほぼ同時にその女子は
体を鋭く半回転させたと思うと
今度は左の手の平を
格闘マンガで言うところの
『掌底』を
不良少年の右脇腹に食い込ませて
聞き慣れない音を立てた。

グーではなくパーで叩いたのが
ボクシングのバンテージが巻かれた
白い鉤手の軌跡で見えた。

いや、
打つ瞬間ではなく
打って戻った手の形で
そうだと分かったんだ
打つ瞬間なんて目にとまるはずもない。

シロウトの僕でもその女子が手加減を
目的としているのがわかったが、
その割に的確に人体の急所である
肝臓の位置をとらえていた。

テレビや映画で見かけるたぐいの
派手なアクションではなく
『本物』の打撃
機械のように正確で無慈悲で
息をするように自然な
コンビネーション攻撃だった。


さながら
道路清掃車の激しく回転する
巨大ブラシに巻き込まれた
古新聞かなにかみたいに
さっきまで
僕を威圧していた不良少年は、
引きちぎられるように
無様に体をゆがめて崩れ落ち

その目は許しを請う懇願に
涙をにじませて
必死にリボンの女子を
見上げていた。

いや、見上げたのは一瞬、
そのままじっとり濡れたコンクリートに
横っ面を預けてうずくまって
苦しそうに
細い息を必死で絞り出している。

叩かれた肝臓が放つ激痛の信号に
呼吸がままならないのだ
知らない人が見たら
なんと大げさな芝居をするんだろうと
失笑するかもしれないほどの
苦しみようだったが

ついさっき
お腹を殴られたばかりの僕には
それが芝居でも何でも無いことが
文字通り痛いほどわかった。






『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 03』

―400メートル向こうから!―



2人の不良
大人の体躯をした不良と
育ちの悪そうな人相の不良が
その女子の眼前で

一人は大人びた値が張りそうなズボンで
水たまりに膝を付き
一人はその濡れたコンクリートの路面に
頬を付けてうずくまっている

夏服の制服に身を包んだリボンの女子は
2人を見下ろし何か言うのかと思ったが

まったくの無言で
それぞれの不良を

畑の野菜を出荷する農夫のように
めんどくさそうにも見える動作で
執拗に蹴り始めた。

その人のスカートは割りと短かったが
運動選手のような
黒いスパッツを中に履いていて
その動作にはスカートがめくれるのを
気にする様子なんてはじめから無い

静かな路地裏に
何かの作業音みたいに無味乾燥に
「ゲスッ」「ボスッ」

と硬そうな合皮のローファーで
不良が蹴られたり
踏まれたりする音がして

「うっ」と息の漏れる音がして

不良だけが
必死で絞り出すような小さい声で

「すいません!」だとか
「ホントすいません!」だとか
「マジで!!
ホントに!!
すんません!」
だとか

乏しい語彙で必死に謝罪を繰り返し

小柄な方の不良はあまりの恐怖に
小学生のように顔をしかめて
涙を流しはじめ
大柄な方の不良は鼻血を流して
すっかり青ざめていた

なすがままにされている2人の不良

それはさっきまで僕を見下ろし
熱くタバコ臭い息を
無遠慮に吐きかけていた
ヤクザのような高圧的自信に
満ち溢れた姿ではなく

強大な大人に折檻される
ただの怯えた子供そのものの姿だった。



ぼくは2人の不良が
そのひとに折檻される様子を
ただ立ち尽くして見ているしか
出来なかった。

その圧倒的な暴力と存在感

助けてもらったのかすら
よくわからないほど
自分を襲っていた猛獣が
さらに巨大な猛獣に
食い散らかされているだけのような
次は自分が食べられる番を
待っているだけのような
そういう壮絶な状況にも感じられた。

ぼくはこのひとに
サイフを出せと言われたら
祭壇に捧げるように
礼儀正しく両手を添えてサイフを
差し出してしまうんじゃないだろうか?
そんな気すらしていた。

いやたぶん・・・
確実にそうしてしまう気がする。

初めて会って
誰かも全くわからないのに、
すでにもうなにもかも
このひとに支配されたような、
責めさいなまれているのは
2人の不良なのに
僕はこのひとの従者で
女主人に
いたらなさを叱責されているような
そんな不思議で
どうしようもない気分を味わっていた。



すると
その空気を一瞬で変える存在が現れる。



「あんた誰な?」

見るとそこには
長髪をまっキンキンの金髪に染めた
いかにも素行の悪そうな女子が立って
まっすぐこちらを見つめていた。
リボンのひとと同じ制服で

自分の通学カバンとリボンのひとの
通学カバンを持っている、
二人連れだったのだ。

リボンのひとが
一見普通の女の子風なのに対し
こちらは400メートル手前からでも
普通の女子ではないと
ハッキリわかる髪の色で
しかも腰ほどまでも長さのある
ロングヘア

サラサラのロングヘアなんかじゃなく
歌舞伎の連獅子というと大げさだけど
なんかそういうのを連想させる
迫力のある跳ねた毛のロングの金髪だ

よくもまぁ、
こんなにもまっキンキンに
染められるなぁ、
と感心するぐらいまっキンキンの金髪で
しかもやはり姉と同じくらいの年である

僕の地元にも
不良っぽい子はそれなりにいるが
ここまで髪を染めているひとは
初めて見た。
っていうか普通の中高生は
こんな風に出来ないだろう。

まず学校が許してくれるハズがない。

この子達はいったい
どんな学校に通っているのか。

僕の人生では
こういう子と話をする機会なんて
まったく想像していなかったのに
そのひとは
人懐っこい公園のネコのように
警戒感をすりぬけて
少し目尻の上がった
キラキラした丸い目で
まっすぐ僕を見つめて話しかけてくる。

「あんた誰な?よそから来たんか?
どこ行くんな?」

え?

いやいや

お姉さんの友達
今となりで不良をヤクザみたいに
蹴り飛ばしてる最中ですけど

どうしてそれを止めるとか、
なにか言うとか、
あるいはそう
カッコイイセリフを言うとか

そういうことをしないで
一切関心を示さないで
初対面の僕の方に
ふつうに話しかけてくるの?

僕はお姉さんらのような
不良っぽいタイプじゃないし
女子とは普段あんまり話したりしないし
なんで僕の事をそんな興味深げに
見つめるの?

いつの間にか僕の緊張は
別のチャンネルのものに
強制的に切り替えられていた。

(ああ、このひとはこのひとで、
 リボンのひととは別の意味で
只者ではないんだな・・・)

と、その時なんとなく直感した。

 そして、自分がもう、
異世界と言うか、魔境と言うか、
とにかく
僕が今まで暮らしていた世界とは
ルールの異なる異次元に
すでに足を踏み入れてしまっていると
感じていた。

僕の姉は本当にこんなところに
住んでいるのだろうか?

今の姉は一体どうなって
いるんだろうか?










『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 04』

―ぼくの知らない姉がいる―





衝撃的だった

ぼくが姉の名前を言うと
その二人組の女子は姉を知っていた

暴君竜のようなリボンの人や
そのリボンの人がヤクザのように不良を
執拗に蹴り飛ばしているのを
なんにも気にしないでケロッとしている
金髪の人らは
姉の同級生だというのだ

「あたしらねー、あんたのお姉ちゃんと
おんなじチームなんやでぇ!」

と、金髪の人が誇らしげに言った

姉はウチではずっと
帰宅部だったはずだけど
こっちにきてなにかスポーツチームの
部活でもはじめたのだろうか?





祖母と姉が暮らす団地は
駅から15分ほど歩いたところにあった
よくある何の特徴もない古びた団地は
むしろ姉のイメージによく
あっている気さえした―――――― 。



――――「あはははは」

姉は明るく笑いだした ――――




ふたりだけの夕食後
キッチンで後片付けをしている姉の背に
昼間の出来事を話した


ぼくは不良に絡まれて
為す術なく殴られた話なんて
おばあちゃんとはいえ
大人には聞かれたくなかったから
いつどこで姉に話そうかと
考えていたが

おばあちゃんは
入院中?かなにからしくて
そのへんの心配はなかった

姉もこんな暴力的な話を聞いたら
顔をしかめるかもしれない・・・
そう思って本当は話したいたぐいの
話題ではなかったのだが
姉のクラスメイトだという
あの強烈な二人組の存在が
姉にどのように影響しているのかを
確かめるためには
あの暴風のような暴力の
エピソードを抜きにしては
はじまらないのだ。

 もしかしたら
姉はあの2人に酷いイジメを
受けているかもしれない
いやそれはないかも知れないけれど
なんにしてもあんな
荒武者のような人間達のそばにいて
何も起こっていないはずがない。
 それを確かめるためには
僕自身がこの目で、この身で、
一部始終を体験したことを
率直に姉に伝える必要がある
その反応によっては
隠し事があったとしても
様子でわかるかもしれない。



しかし、
予想に反して姉は明るく笑いだす
僕は姉がこんな風に笑うところを
初めてみたかも知れない
僕の姉のイメージは

決して目立つことはしない
良いことも悪いこともしない
あんまり泣いているところも
怒っているところも
見たこと無いかも知れない


姉は普通より美人というか
いやかなり美人な方だと思うが
誰もそれを意識しないほど
影の薄い存在で
その影の薄さというのは
控えめだというより
一緒にいると自分の影まで
薄くなってしまいそうな
そんな危うささえ持っていた・・・。

 その姉が
二人組が不良を容赦なく殴ったり
意に介さなかったりした話を聞いて
明るく屈託なく笑ったのだ

「あのふたりはね~、特に強烈だから」

 ぼくのあの衝撃的な体験に対しての
姉のコメントは
クスクスという笑いを含めて
それだけで済んでしまった。

一体どういうことだ?

これは笑って済まされる程度の
話なのか?

少なくとももしこれが
クラスメイトのRだったら

「おいおいマジかよ!?
キミの話はにわかに信じられないなぁ!
いやキミを疑っているわけじゃない
ただ心理学上人間というのは――― 」

だとか

「それは完全に犯罪だよ
その不良たちの特徴を覚えているかい?
 すぐ警察に連絡しないと

キミはその駅で
毎回カモられる可能性があるよ、
 今週のヤンキー漫画にも
そういう場面が――― 」

だとか

 たぶん休憩時間を十分埋めるほど
いや下校中もその話がぶり返すほどの
反応が起こるだろう

Rほどでないにしても・・・

―――いや、ちがう

そういう問題じゃない気がする

「あのふたりは特に強烈だから」
という事は、
あのふたり以外にも
特にじゃないが強烈なのがいる
という事なんじゃないのか?







夏休みだと言うのに
姉は毎日制服に着替えて登校している

だがどうも

部活をしているのではないらしい

 姉はこちらでは
宇宙艦隊の付属校に

通っているとの事だった。

帝国艦隊付属校というものが
普通の学校とは違うというのは

なんとなく話には聞いていたが
具体的にどう違うのかなんて

僕は知らない。

全国にいくつか艦隊が関係している
学校施設があるっぽいけど
直接身内が通っていたり

近所だったりしない限りは
ほとんどの人が
その内容を知らないと言うか

関心すらないんじゃないだろうか?


姉に訪ねたら

「う~~ん、
普通の学校っぽい
ところもあるし
そうじゃないところもあるし
ん~~~~

どこから説明したら良いのか
わからない」

守秘義務とか?

「それは確かにあるんだけど、

習うことの範囲がものすごく広いの、
あ、お姉ちゃん、

クルマの運転が出来るんだヨ?
オートマじゃなくて難しい方でね!

あの金髪の子に教えてもらったの!」

え?無免許運転?

「あー、え~~~っと、

(艦隊施設の敷地内
及び特別な事情の場合)は
外で運転しても良かったのかな?

わたしは外ではしたことないけど」

厳しい?

「楽しいよ?
でも向かない子は全然ダメかも」

イジメとかないの?

「みんな大人っていうか
そういう事してる暇がないというか
たぶんクビ(放校処分)になる。」

クビになるの!?

「宇宙じゃ狭い宇宙船内で長期活動
しなきゃならないかも知れないのに
学校生活ぐらいで
問題を起こすようじゃね~」
 
あー!・・・そうなんだ。

「どうしたの?
ユウって宇宙に興味あったっけ?」

いや、
そういうわけじゃないんだけど・・・
お姉ちゃんは
宇宙が好きだったんだね・・・!


すると姉の様子が少し変わった
テーブルの上にある
すらりと伸びた姉の白い手が
じんわりと動くのが見えた

「うーーーん、好きっていうか・・・
・・・そうだね・・・うふふふふ」

姉は視線を斜めに落として微笑んだ、
さっきまでとは違い
その微笑みには、影というか
隠し事というか
そういうものが少なからず感じられ
その瞬間、何故か僕には急に
姉が僕の姉ではない
どこか遠くの
知らない世界の
大人の女の人のように見えた。
 

そして、対象的にボクがひどく
子供であるように思われて
そんな子供が
詮索しているという光景を
客観的に虚空から見下ろしている
錯覚に襲われ
なんだかすごく
バツの悪い気分になった。

















『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 05』

―鎮守の森の妖麗―





真っ青な夏空の下

じゃわじゃわと鳴く蝉の声が
まるで液体の波紋が波打つように
強弱をつけてあたり一面に反響し
住宅地から程ないこの神社を
周囲の喧騒から完全に遮断している。

そのあまりに大きな木々達が
住宅地の家々の屋根のうえに
緑の小山となって
こつ然と現れているのが
果てしない水平線に浮かぶ
孤島のように団地から見えて
僕は炎天下を歩いて
このひっそりとした
神社にやってきていた。


樹齢が千数百年と書かれた
立て札の立っている
県指定天然記念物のクスノキは
幹の周囲が10メートル近い大木だ。

そんな大木が何本も生えている
この鎮守の森に包まれた神社は
はるか平安の世から続いているで
あろうという歴史の重みに反して
普段から人の気配がなく
少し寂れている感じで

蝉の声と僕が砂利を踏みしめる音と
あとは時折気まぐれに吹く風が
木々を揺らして葉擦れの声を
たてているのみだった。


木陰から見上げてみると
それすら電信柱並に太い枝葉の向こうに
ギラギラと時折光を反射する
灰色の物体が浮かんでいる


 帝国艦隊の巨大な航宙艦だ


あれはいったい

どのくらいの大きさが有るのだろう
空には比べるものがなにもないので

まるで大きさを実感できないが

 それでも無骨な鉄骨を組み合わせた
製鉄所の高炉のような外観を持つそれは
海上を行く超大型の石油タンカーを
いくつか束ねたぐらいには

大きいだろうと察しがついた。

 一隻だけじゃない、
二隻、三隻、四隻・・・、と
遠近法の説明図のように

遠く霞むまで並んで
あたかもデパートのセールを知らせる
アドバルーンのごとく

ポッカリ浮かんでいるのが見える

ボクの住んでいる街にも

宇宙港はあるけれど
あんな巨大な航宙艦が当たり前に

プカプカ浮かんでいる光景は初めて見た

姉によると
あれは船が自力で飛んでいるのではなく
地上施設と二人三脚で
ちょうどリニアモーターカーのように

浮かんでいるという事だった
リニアモーターカーは

磁力の力で浮上しているけれど
あの巨大な宇宙船は

たぶん磁力とは違う力を
使って浮かんでいるのだろう。


帝国艦隊というのは日本の組織だが
日本政府のものではなく

独立した民間の組織で
宇宙探査と開発を担う

巨大航宙・防衛企業とされている。

 そして日本を除く世界中の政府から

嫌われているらしい


それは、ああいったとんでもない技術を

宇宙人の遺物から手に入れて、
それを独占している
というのが理由らしいが
僕には政治のことはよくわからない

世界中から嫌われているというのも
政治的な話であって

念積大戦や
第三次世界大戦なんて呼ばれる
世界中を巻き込んだ大紛争も

結局誰が勝者かすら
ハッキリしないまま
ずっと未だに
責任を押し付けあっているみたいに
誰の言うことが正しい認識なのか
海千山千の大人たちが
したり顔で論争しているニュースを
見ても何もわからないし
分かりたくもなかった。




だけど・・・



今は姉が帝国艦隊付属校に通っている

それも
いまいち釈然としない理由でだ


 この土地の人は
雲が浮かんでいるのが当たり前のように
あんな巨大なものが浮かんでいることを
気にもしないが

 僕はその非日常感に不安になる

そして漠然と、すでに姉はその
非日常の世界の住人になってしまって
いるのではないかという危機感

この土地の人も含めて、
みんな騙されているのではないかという
本能的な懸念に苛まれている。



「航宙艦がお珍しいのですか?」


 倒錯したような空の景色に
心を持っていかれて
すぐ後ろから声をかけられるまで
人の気配に気が付かなかった、

 いや、そもそもこの人は
人の気配が有るのだろうか?

振り向いた僕は
そう思わずにはいられなかった


そこには長い髪の女の人が立っていた

艷やかに輝くその髪は
気品そのままに
ゆるやかにウェーブしており

モデルかなにかのように背が高く
姉とはまた違うタイプの美人だった。

 姉もそうだが
可愛いのではなく美人なのだ
一見、落ち着いた
大人の女性のようにも見えたが、
その目は思いのほか初々しい
素直さのようなものを残しており
そしてどこか人間離れした
怪しさが見て取れた

 それはその人が
木陰とは言え真夏に着物を着て
まったく汗をかく様子もなく
涼やかにすら見える
というだけではなく

とても姉ぐらいの年頃の
女子のものとは思えない
遠い太古の日本からやってきたような
佇まいだったからだ。


「艦隊の人ですか?」

なぜか直感的にそう確信した僕は
彼女の呼びかけに返答もせず
思わず問い返してしまった

そして彼女は

「はい」

と答えて

「あなたが私のお友達に似ていたので
 つい声をかけてしまいました」

と、涼し気な目を細めて
ほんの薄っすらと微笑んだ。


 ザワザワと夏風がクスノキを揺らし
手水舎にある龍の像から流れ落ちる水が
わずかに飛沫を立てて
キラキラと乱反射している様子が
彼女の背景にぼやけて見えた


 僕が姉の名前を言うと
彼女はコクリと頷いたあと
不思議そうに少し首を傾げて

「わたしの顔に何か?」と言った

 僕はそれで
自分がすっかり彼女を凝視し続けて
しまっていた事に気がついて
慌てて目をそらして弁解した

「いや・・・!その・・・!」

 弁解しようにも見惚れていた
などと言えるはずもなく
そしてそれは彼女の
外見だけでなく
現し世を離れた存在感に対して、
人外、物の怪の正体を
見破ろうとするような意識が
少なからずあったなどという
とても言葉に出来るものではなく

急激に動悸が激しくなった

 あからさまに
挙動不審な振る舞いであることが
自分でも痛いほどわかって
首から頬に伝わる強い脈動と共に
ますます顔が紅潮してゆく
もう地面を
見つめるしかなくなってしまって

「姉が・・・お世話になっています」

とだけやっとのことで答えた。


その様子を見て彼女は

「あなたは・・・
お姉さんにとても良く似ていますね」

とクスリと笑った。










木々の木陰を抜けて少年の後ろ姿が
遠く白昼の日差しの中へと
溶け込んでいくころ
御神木の幹の後ろから
もうひとりの娘が現れた




「貴音!あれが千早の弟か?」

 そう、妖麗の娘に声をかけたのは
貴音とは正反対の
健康的に日焼けした
ポニーテールの娘だった

 猫科を思わせるしなやかな身のこなしで
大木の太く張り出した根を
ひょいひょいと飛び渡ってくる

「響・・・! 
見ていらしたのなら
ご挨拶すれば良かったのに」

貴音がそう言うと

わざと呆れたように
肩をすくめて見せながら

「私は貴音を守らなければ
ならないからな」

「わたくしも響を
守らなければなりません」

「まぁ、そうだけどさ」

「あの方が何か私達に仇なすと?」

「ん~~~、そうじゃないけど
ちょっと様子が・・・」

「様子ですか?」

「尋常じゃないな、
心ここにあらずで
なにか憑き物に憑かれている
ようにさえ感じる」


「そのような大事に・・・!」


「ま・・・気の回しすぎかも
知れないけどさ!」

「そんな事はありません、
カンナキ(神御嶽主子)である響が
そう感じているのなら
きっと何かの流れが
淀んでいるのでしょう。」


「まぁ・・・
帝国艦隊にもそうだし
自分ら感応兵器部隊の人間にも
いろんな思惑を持って
あの手この手で接触してくる
勢力が有るんだからさ

当然その親類でも
何かに巻き込まれている可能性を
常に考えておくべきじゃないかと
思わなきゃな。」


響きの言葉に
貴音は悲しげに表情を曇らせ


「そうですね・・・」

そう言うと
少年の消えていった
陽炎の立つ真っ白な路地の向こうへと
もう一度視線を戻した。

    

『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 06』

―姉と家族の肖像―




次の日は朝から雨だった



姉は今日も変わらず登校した
全校生徒がそうなのではなく、
いくつもの集団に分かれて
長期宇宙実習などが
変則的に行われる関係で
通常の学校のようなスケジュールには
いかないのだという

窓辺に座って外を眺めると
真昼なのに町は今にも
街灯が点きそうなくらい薄暗く藍色に
染まっていた。

上空を航空機が通り過ぎる
重低音に見上げると
里山を隠すほど低く垂れ込めた
濃厚な雨雲の谷間を
見たことのない奇妙な機影が
赤と緑の航空灯を点滅させながら
ゆっくりと数機
通過していくのが見えた。

あれが航宙機という
宇宙版の小型飛行機か?

僕は昨日神社で会ったひとのことを
思い出していた。

あのひとも宇宙服を着て
今しがたの航宙機なんかに乗って
飛んでいるのだろうか?
僕の姉ですら
そんなことをしているなんて
信じられないのに

でも僕はたしかにあのひとをひと目見て
艦隊付属校の人だと確信した
それは初日に見た二人に感じたのと同じ
特別な空気を感じたからだ
あの空気はなんなんだろう?

そう言えば
姉に宇宙が好きかと訪ねたときも
同じ様な空気を感じた気がする。

僕はまだ何も分かっていない

少なくとも
例の差出人不明で送りつけられてきた
あの写真みたいなことが
行われているような気配はまるでない。

姉は毎日学校に行き、
暗くなる前には買い物を済ませて
ちゃんと帰ってくる
夜に出かけるなんてこともない
不審な電話もない
そして僕の話し相手になってくれて
優しく宿題も見てくれる。

でも確実に僕の知らないことが有る

姉は一体何を隠しているんだろう?

そういえば両親にも
姉がなぜ転校することになったのか
聞かされていない
何の前触れもなく突然のことだった
転校するからおばあちゃんちに行く
ただただそういう話でしかなく
僕もその時はそうなんだとしか
思わなかった。

 思えば子供の頃から
姉はずっと僕ら家族とは
縁が薄かったような気がする
見方によれば
あれは姉が意識して
そうしていたとも見える。

それはなぜ?

いずれ・・・

いや、
最初から自分がこの家族の枠組みから
消えることを想定していたかのように

なんのために?

少なくとも僕には
姉に一歩踏み込むことが出来ない
見えない鎖がついている。
普通の姉弟ならもっと簡単に
聞き出せそうなことが僕には出来ない
その鎖は生まれてからずっと
姉が僕に少しずつ付けていったもの
なんじゃないのか ――――。







雨水の溜まった路面を掻き分けて
クルマのタイヤが行き過ぎる
ざーざーといったロードノイズが
右から、左から、
一人の少女の前を通り過ぎていく


如月千早は
夕暮れ過ぎの群青色の雨の中
水たまりに街灯や信号の様々な光彩の
ゆらゆらと形を留めず
反射しているのを見つめながら
大通りから一筋離れたところにある
薄暗いアーケード歩道の軒下に
雨を避けて立っていた。

七月の末とはいえ
陽の射さなかった一日の終りは
季節を取り違えたようにうそ寒かった。


そこは人通りもなく
どの店もくすんだシャッターを
下ろしており
頭上にある看板だけが
首長竜を思わせる
長い支柱の先端がくるりと折れ曲がった
照明器具によって
煌々と照らし出されている。

千早の手には傘は無く
髪には細かい雨滴が儚げに付いている。


やがて黒いこうもり傘を差した
スーツ姿の中年男の革靴が
路肩と歩道の境目に
波紋を起こしながら近づいてきて
立ち止まった。


値踏みするように目を細めて
千早を見やり
顔を覆うように咥えたタバコを
手の指に挟んで一息吸い込むと
ゆっくり唇から離した。

「君が如月くんかい?」

男は吐き出す煙とともに訪ねた。

濃厚な紫煙とニコチンのニオイが
少女が返事を返すより先に
その体をまさぐるように
無遠慮にまとわりついてゆく。


如月千早がコクリとうなずくと男は

「じゃあ、行こうか」

とだけつぶやき、
吸っていたタバコを
水たまりに投げ入れた

ジュッ、と音を立てて光を失い
水にしなびていくタバコに
千早が視線を落としていると


男は千早を捕まえるかの動作で
その細い肩を抱き寄せ
ぐっと傘の中へ引き入れると
有無を言わさず
当たり前に
ふたたび雨の中へと歩き出す。

千早は肩を抱かれたまま
夜に埋もれるように顔を上げない。

歩くふたりの影には会話もなく
ほどなく行き交う通りの
光と闇の淀みへと溶け込んでいき
後には雨音だけが何事もなかったように
ただ黙々と世界を打ち続けていた。








――その日、
明け方近くなって
姉が帰った気配がしていたのを
僕はまどろみの中で感じていた。

雨はもう上がっているはずなのに
どこからかピチャンピチャンと
水の雫が
落ちる音を聞いていた気がする。
いつまでも――



















『スターラスターガール

感応兵器・如月千早の夏休み 07』

―宇宙ステーション―



~~タイタン発、

貨客船9652便が間もなく到着します。
係員はC-48番ゲートで待機して下さい。
まもなく貨客船9652便が到着します
係員はC-48番ゲートで待機して下さい。

~~~


高い天井と人けの少ない広いロビーに
アナウンスが響いている。



基地は今、地球に近い

かなりの低高度を通過中らしく
手すりの向こう側を
数階分のフロアに渡って

大きく覆っている展望と装飾を兼ねた
巨大なパノラマウィンドウを通して
地球をとても近くに
見ることができる

見下ろすと下の階では
ツアーの団体客がおなじように
手すりの前で並んで
地球をバックに記念撮影をしていた
おばさん達は
上機嫌ぶりを隠そうともせず
すこぶるハイテンションなのが
ここからでも身振り手振りと
響いてくる雑多な歓声で
手に取るように分かった

宇宙世紀昭和85年と言っても
普通の人は仕事関係でも無い限り
そうそう宇宙に用があるわけではない。
 だからワザワザ
観光で見に来るわけなのだが
この地球を肉眼で見るだけでも
宇宙に来る甲斐がある気がする。

とくにこんな低高度をタイミングよく
通過中に訪れられたのは
運がいいと言える

高天原宇宙基地
(たかまがはらうちゅうきち)

最大部は現時点で約7000メートル
現在も各用途のブロックごと
入れ替えや拡張が行われているので
外形さえ変容する。
帝国艦隊が所有運営する
大型ターミナル宇宙ステーション


テロ対策その他の理由で
旧来の宇宙ステーションのように
一定の軌道を周回しているのではなく
高度もコースも適宜変更され
スケジュールは非公開。



う~~~ん

しかし宇宙に来た感覚が
というか、
宇宙人の進んだテクノロジーが
使われているという感覚が
まるで感じられない
科学万博のパビリオンの方が
よっぽど未来的かもしれない。

科学技術に詳しくない自分でも
『重力コントロールシステム』
なんてものが
地球にある従来の技術じゃ
到底ムリである事ぐらいわかるのだが
ここに来るシャトルに乗った段階で
当たり前に使われている状態なので
それが
”飛躍的な技術”として認識できない。

他にもこの巨大な宇宙施設は
不可視の防壁や
構造を補強する力場で
守られているはずだけど
基地内にいても何も感じない。

この宇宙ステーションにやってきたのは
何年ぶりだろう?
まだ小学校に上る前に
家族でやってきたことがある
でもほとんど記憶というか
印象に残っていない

もうとにかく来るまでに長時間
じっと座らされたり並ばされたりで
すっかり嫌になっていて

僕はと言うと見学そっちのけで
最初の売店で見かけた
『ポケットシリーズ』と称された
どこででも買えるオモチャが
もうすっかり欲しくなってしまい
当然そんなものを
買い与えたがらない両親と
一悶着を起こして
散々ごねてやっと買ってもらい
にもかかわらず帰りのシャトルで
呆気なく壊してしまうという
なんともしまらない
子供らしいといえば子供らしい
そんな思い出しか無い。

姉も一緒に来てたはずだけど
その印象もまるで無い。

逆に言えば
そんなどうでもいいオモチャに
負けてしまうほどの
子供にとっては面白みのない
施設であったとも言える。

しかし、改めて見ると
あれから10年も経っていないのに
ずいぶん様変わりしているのに
驚かされる
当時はもっと工業施設を思わせる
味気ない作りだったはずだけど
いつのまにこんな風になったのだろう?


 中央ロビー部は各方面の
搭乗ゲートとなっているのはもちろん
複数のグッズやみやげ物等の
小売店舗や飲食店、映画館、
フィットネスクラブ、ヘアサロンなど
サービス業の店舗も入居する
商業施設エリアで
何階建てにもなった吹き抜け構造の
さながらショッピングモールを思わせる
様相を呈していて

その他、〝さまざまな宇宙開発に関する
展示場や植物園まで存在する〟と
世界各地の時計を兼ねた
大きな噴水の出る
モニュメントの案内板に
表示されている。

またその噴水やその外周には
沢山の木や花やツル植物が
植えられ配置されており
そのすべてが瑞々しい本物で
まるで宇宙にいることを感じさせない。

僕は蘭の花が放つ新鮮な芳香に包まれて
こだまするアナウンスや
かすかな雑踏の音を聞きながら
高い天井画を見上げていた。


ただその大型国際空港風の施設の
規模の割に圧倒的に人が少ないのが
非現実感をことさら誘起していた。

本来ここは人がごった返していなければ
ならないところではないのか?

そういえば何年か前、
帝国艦隊のニューフロンティア計画の
目玉だった数十光年向こうにある
ヤマトアマツユ星系で
新種の宇宙人かなんかとの
大規模な事変が発生したとか
それでボロ負けして
地球はじきに侵略されるとか騒いでた。

しかし
知らない間に他の話題と同じように
だんだんと飽きられて
何にも言わなくなったので
結局たいしたことはなかったのかと
思ってたけど


実際はあれが後を引いて
宇宙開発計画が停滞したとか
そんな感じなのかもしれない

よくみると
商業エリアの店舗は
どれも無人化がすすんでおり
ロビーに居るのも係員ではなく
簡素なデザインの
インフォメーションロボットだ


姉には
関係者証明カードをもらっていて
それを入場口で提示して
チェックを受ければ
許可を受けた者しか入れない
ラウンジが利用できるので
そこで待っているように言われていた。

僕は到着したての観光客らがいる
ホールの両側に二本ずつ設置された
エスカレーターでうえに上がり
透明パイプのエレベーターに乗り込んで
遠ざかる下のロビーや
グニャグニャと
有機的にうねった各階の廊下、
向かいの壁のレリーフとシャンデリア、
それらが通過していくのを見ながら
落ち着いたやわらかい間接照明が照らす
待合エリアのある階へとやってきた。

そこは静かな音楽が流れ
置いてある家具も
大人っぽいものがならんでおり
僕のような
普段着姿の子供が一人で来るのは
場違いな場所に思われた。

きっと他に大人がいたら
ジロジロ見られてしまうんじゃないかと
すこし不安になったが
幸い人はまばらで
そして図書室のように
座っている誰も
他人のことなど見ていなかった

僕はこの広い中の
どこに腰掛ければ落ち着くのか迷ったが
どこに座っても
落ち着かなそうだったので
あきらめて適当なソファーに浅く腰掛け
改めて深く座り直した。

周りを見回しても
スーツを着た大人しかいない

「お客様、
ナニカお持ちしましょうカ?」

といきなりメイドの格好をした
ヒューマノイドに話しかけられ

「えっ・・・あっ・・・
・・・いや、いらないッデス」

と本格的にうわずった声で
返答をしてしまって、
その声が意外と響いて
周りに聞かれてしまった気がしたので
一人で座っているのが
ますます辛くなる。

(お姉ちゃん、早く来てくれ~・・・!)

時間が経つほどに
どんどん不安になってくる
本当に待ち合わせは
ここでよかったのだろうか?
やっぱり外に出て
待ってたほうが良いのではないか

そんなことを逡巡していると




「キミが千早の弟くんか?」

という声がして
視線を上げるとそこには


いかにも『切れ者』という
鋭い視線の女子が
帝国艦隊の青いジャンプスーツを着て
立っていた。










『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 08』

―案内のふたり―






背は僕とさして差はないが
帝国艦隊の青いジャンプスーツを着て
黒いカチューシャできっちり
髪をまとめた
ストレートヘアのいかにも切れ者という
鋭い視線の女子が立っていた。


てっきり姉が来ると思っていた僕が
面食らっていると


「わたしはキミのお姉ちゃんと
同じチームで、
とりあえずチームリーダーを
やっている水瀬だ
キミのお姉ちゃんに頼まれて来た」

と彼女は簡潔に述べた


するとその後ろに立っていた
ツンツンと尖った髪を
ベリーショートにした
男子みたいな快活そうな子が
顔をのぞかせて

「あ!ホントだ
チーちゃんと似てるぅー!
わたしも同じチームの菊地です
よろしくねー。」

とにこやかに手を差し出して言った。

ぼくは慌てて立ち上がって
二人と握手をした。

「ぼ、僕は如月 ユウです。」

「ユウ君か、じゃ、
説明するから座って」

と、うながされて僕たちは
向かい合わせにソファに座った。


「えーと、千早。
キミのお姉ちゃんねぇ
ちょっと調整に時間がかかって
予定変更になったんで
ここには来れない」

「あ・・・そうですか・・・。」


「うん、でー、その
艦隊の案内?っていうの?
せっかく各方面にも
許可を取ったって言うから
じゃあ、わたしらが買って出ようか?
という話になったワケ
――嫌かな?」


「え、いや・・・そんな事ないです!」


「そうか、なら決定だな。
えーと・・・どっから行くか」

手に持った電子パネルを眺めながら
リーダーの子は
テキパキと話を進めていく
すると隣でモジモジしていた
キクチという人が口を開いた


「伊織ちゃん!」

「んー?」

「わたしお腹すいちゃったんだけど・・・」

「あー、そうだな」


「ユウ君!」

急に部下のように

名前で呼ばれてビックリする

「はい」


「わたしらなー、今日は朝から訓練あって
ロクなもの口にしてないんだ
これからまず食事をしたいんだけど
付き合ってくれるかな?」


「は、はい」

「よし、行こうか」


そういうと水瀬さんはサッサと
淀みのない動作でラウンジを出て
カーペットの通路と
艦隊職員用の簡素な通路とを隔てている
カモフラージュされた扉の
電子ロックを解除し
ぐいっと体を預けるように押す

フラットに見えた壁面に筋が入り
隙間ができたかと思うとそれが広がって
入り口となった。

水瀬さんはそのまますっと入り
振り返りもせずどんどん歩いていく
菊池さんもその後に
僕を促すように見てから続く

入ってから振り返ると
扉はゆっくりと元の壁の位置に
戻りつつあった


鏡面仕上げみたいに姿が映り込む床の
静まり返った通路には
足のない警備ロボットが
こちらを監視している以外なにもなく
3人の靴のゴム底がかすかに立てる
キュッキュッという音だけが

足早に小気味よく響いていた


前を歩く
チームリーダーだという
水瀬さんは何歳なんだろう?
僕と背も変わらない小さな人なのに
どこか大人っぽくて落ち着いている
歩く姿も自信ありげというか
こういうのを『颯爽としている』
って言うんじゃないだろうか?


チームリーダー・・・
チームっていったい
何人くらいの規模なのかな?
そもそも何のチームかすら
僕は知らなかった


そんな事を考えていると
そばを歩いていた菊地さんが
通路の説明をしてくれた。


「ユウくん!今歩いている
ここの通路はすでに
制限区域(コントロールドエリア)に
入ってるんだよ?」

「―― 制限区域・・・?」

「うん、つまり
例え政府の偉い人でも、警察でも
許可なしには出入りできない
特別なエリアって事ね?
だからユウくんも今日は
特別の許可ってワケなんだよ?」


そういうものなのか・・・
でもちょっとなんか大げさに
脅かされてるような気もする
というか
だいたいウチのお姉ちゃんに
そんな大層な許可が取れるというのが
なんとも想像しにくいと言うか

警備だってマスコットみたいなロボが
ぽつんと立ってるぐらいだったから
いまいち実感がわかない
というのが正直な気持ちだった。



水瀬さんが扉の前で立ち止まり
僕が戸惑ってないか

一瞬振り返って確認すると
二重扉の空間を抜けて

新交通システムの
カプセル車両に乗りこんだ
これで離れたブロックへと移動する

新交通カプセルは大きめの
エレベーターバスケット程度のサイズで
基地のいたるところへと
軌道が繋がっている。
外から見ると
電車の車両の前だけ切ったような
デザインであることが
他のカプセルがいくつも基地の壁面を
うごめいている様子で分かる。

手すりはあるがイスは無い
縦横無尽に結構な速度で移動しているが
振動もわずかしか無い、
だからなんだか
ただ立体映像の見える箱に
入っている気分がする。

やがて直線約1000メートルの
主要連絡橋へと差し掛かった。

側面に設けられた窓からは
さまざまな小型艇が
忙しく行き来している様子や
無人機が荷物を運搬しているのが
見えていたが
何より目を引いたのは
連絡橋と並行してすぐ側に係留している
巨大な航宙艦だった。

いつも遠く空に浮かんでいるのを
見上げていたが
間近で見るとまったく違う
新鮮な感動を覚える

船体には
ひとつひとつが巨大サイズの
パーツや配管がクッキリ見える
特に配管のパイプが
中を大型トラックが
何台も行き来出来そうなほどの太さが
あるのが印象的で
それらが縦横に組み合わさっているのを
立体的に見ていると
自分がミニチュアサイズになって
機械の裏にでも入り込んだかのような
錯覚を受ける。

「これは標準型の巡恒艦だよ」

ぼくが係留している
航宙艦に見入っているのを見て
菊地さんが嬉しそうに教えてくれた。

「航宙艦とは違うのですか?」

「ううん、航宙艦というのは
宇宙船の総体的な呼び方だね
これはその中の巡恒艦という種類
つまり太陽系と太陽系の間みたいな
何光年もある超長距離を旅することが
出来る宇宙船なんだよ?」


「いつもプカプカ空に浮かんでるけど
そんな遠くまで行くんですねー」

「そう!でね、どれも同じように
見えるかも知れないけれど、
よく見ると構成パーツが変更されてて
それぞれちゃんと
見分けが付くんだよ?」

「武器もついてるんですか?」

「だいたい基本装備的には大型目標用の
長距離直射型プロトン砲が
予備と合わせて2門と
小型目標用のターレット式
スレイザーが複数ついてるね」

「強いんですか?」

「たまに惑星間定期便が
宇宙生物に襲われたってニュースが
やってるよね?
ああいうのに主に出てくる
ギャラガグループの
強襲型旧第一世代
小型真空生物群程度なら
ビクともしないかな」

「すごいんですね~」

「う~ん、でも
宇宙人の船の方がずっと強いかも」

「え?そうなんですか?」

「うん、だからむかしほど
航宙艦では戦わないね」


そういうもんなのか・・・
帝国艦隊なんていうから、
艦隊戦とかやっているのかと
勝手にイメージしてた。

そもそも帝国艦隊
なんて名前が付いてても
別に他の国や星を支配しているわけでも
なんでもないのに
おかしな感じだなと
以前社会科の授業で習った
帝国主義の定義なんかを
思い返していた。

 確か帝国主義というのは

『政治、経済、軍事などにより
他国、他民族を
侵略・支配・抑圧し強大な国家を
創らんとする思想や政策』だったはず

でも僕が知る限り
帝国艦隊は世界を支配どころかむしろ
世界各国政府からの干渉を
遠ざけようとしているように見える
どこらへんが『帝国』なんだろうか?


振り返ると
菊池さんと目が合った

菊池さんは、
何かを言いかけていたが急に
恥ずかしそうに頬を赤らめ
「へへへっ」と照れ笑いしてごまかした

それは菊池さんが
航宙艦というか
ああいうモノがとても好きな様子で
つい夢中で話してしまいそうになるのを
なんとか思いとどまった
そんな感じの飾り気のない
素直な遠慮の現れであると感じられた

ぼくよりいくつ年上なのかわからないし
第一印象は男子っぽく見えたけれど、
なんだか可愛いらしい人だなと思った。

それまで
艦隊の人はみんな腹に何かあるような
底知れない人ばかりなのかと
すっかり思い込んでいたので
僕は菊池さんを見てここで初めて
同級生にでも会ったような気持ちで
少しホッとしていた。







カプセルが到着した先にあったのは
宇宙空間を眺めながら食事のできる
食堂というかファミレスというか
そういう感じの場所だった。

入口の外の通路には
食品サンプルのガラスケースがあり
そこの券売機で食券を購入するという
システムになってるらしい。

到着ロビーにあるものほど
洒落た店舗ではないが
観葉植物が配置された
パーテーションに区切られており
明るく清潔感があって
メニューは各種定食やデザート等あり
どれも美味しそうに見えた。

まだ午前11時前だったが
じゃあもうここで昼食として
済ませてしまおうと思った。


「ユウくん、ウチのチームの
おごりだから好きなの選んでいいよ」

と水瀬さん。

「え、いや、そんな・・・」

と僕が辞退しかけると

「あー、遠慮とかいらんから。
ここは艦隊の生徒に配布される
チケットのポイントで
注文出来るんだけどなぁ
うちのチームのおっちょこちょいが
今日中に消費しなきゃ抹消される
臨時のポイントを
アホほど稼いできてなぁ
融通も利かないし
どのみち使いみちが無いんだわ」

「美希ちゃんポイントが消えるの
知らないのかなぁ?」

「あの様子じゃ知らんだろうなアイツは
前にちゃんと教えたんだけどなぁ」

「まだ航宙機の
戦闘シミュレーターやってるの?」

「やってる、春香と一緒に
A組をボコボコにして荒稼ぎしてる」

「あちゃ~~」


水瀬さんと菊地さんの
会話を聞きながら
なぜか僕は、駅前で見た
あのリボンと金髪の二人組のひと達を
連想していた。
たしかあの二人も同じチームのはずだ。




食事は菊地さんの
「エビピラフが美味しいよ?」の一言で
三人共エビピラフと
サラダとアイスコーヒー
という組み合わせになった。

 じつは、情けない話
初対面の女子のひと達と
一緒に食事するという
しかも
ごちそうしてもらうという状況で
いままでそれが経験したことの無い
非常事態であることに気がついて

これはちゃんと振る舞わなきゃ
いけない場面なんだと
急に意識してしまって
ぼくはドギマギしはじめた

食品サンプルが並ぶ
ガラスケースの前で
両サイドを女子のひとに挟まれた状態で
返答を待たれる形となって
僕はとにかく
何か早く決めなきゃという焦りで
メニューもなにも目が回って
見えなくなっていた。

『こんなとこの食事ぐらい
なんでも良いんだ
適当に決めろよ~』と

心の中で架空のおじさんを想像して
自分を落ち着かせようとするのだが
そうはいっても現実の僕は
ただの中学にあがったばかりの
男子なワケであり
こういう場面に直面して
冷静に振る舞おうとすると
よけいに変な感じになってくる

親と行く外食の感覚で注文したら
やっぱり変だろうか?
そりゃ変だ
子供っぽく思われたらどうしよう
かっこ悪くないのはどれだろう?
思考がグルグル巡って
答えがサッパリ分からない。

すると水瀬さんが
僕が決めあぐねてるであろうことを
いち早く察してくれて

「それじゃあ」と言いながら
手早くパパッと僕の分の食券も買って

「足りないものがあったら追加してね」

と手渡してくれた。

僕がホッとして視線を向けると
水瀬さんは何も気に留めていないように
よそを向いていた

知らない人が見たら
人の注文まで勝手に決める
なんとせっかちで
自分勝手な人なんだろうという風に
見えるかもしれないけれど

水瀬さんは初めから
慌てたりしていない
先に食事をすると決めたのも
菊地さんの希望だからだ。

僕がテンパって
おかしな振る舞いをして
恥をかいてしまわないように
あえてそうしてくれたのだ

水瀬さんの後姿を見ながらぼくは
最初見たときは少し近寄りがたい
頭は切れても冷徹なタイプの人かな
という印象を持っていたけど
決してそういう
つまらない人ではないのだと
考えを改めていた。


姉が言っていた『みんな大人』
というのはこういう事を
指していたのかもしれない。

そしてこんな人がリーダーなら
僕よりさらに人馴れの悪い姉であっても
ちゃんと上手く
やっていけるのじゃないだろうかと
姉がここに並んでいる姿を
なんとなく想像していた。












『スターラスターガール
感応兵器・如月千早の夏休み 09』

―極東の魔女―




水瀬さんが案内してくれて
僕たちは窓際にある席へと付いた。
イスが三脚ある
丸いテーブルの席だった。

そこは天井から足元まで
傾斜した大きな窓が覆っていて
宇宙が見渡せる。
なんだかすごく気分のいい席だ。

それにテーブルの中央には
白い小石の敷き詰められた
鉢植えが置いてあって
サンスベリアの葉っぱが
めらめらと立ち上がっているので
いくらか彼女たちと
正面から向かい合う形じゃなくなり
よけいな緊張をせずに食事が出来るのも
気の小さい僕にはありがたかった。


見るとさっきから青と白っぽい
ツートンカラーの航宙機が
窓の外を滞空している。
宇宙なんだから滞空って
言って良いのか分からないけれど
ふわふわと流体の中を漂うように
一定空間内に留まっている。

全長は二十メートル強くらいかな?
ちょっと距離感がつかみにくくて
大きさが良くわからない。
でも操縦席の大きさから比較すると
多分それぐらいだと思う。

普通の飛行機なんかと違って
厚みがあって頑丈そうで
見るからに威力が強いと思われる
大きな大砲が
機体の下部に槍でも構えてる風に
据え付けられている。

菊地さんがその様子を見ていたので
知ってる人でも乗ってるのかな?
と思って訪ねてみた。

「艦隊付属校の人は
ああいうのにも乗るんですか?」

すると菊地さんは

「あれは軌道自衛隊所属の航宙機でね
ソルバルウって名前の攻撃機だよ
すごくカッコイイね。
艦隊にも配備されてるから
私達も乗るかもしれないねー」

と答えた。

「航宙機ってみんな
帝国艦隊だと思ってました
違うのもあるんですねー」

ぼくがそう答えると
水瀬さんが説明してくれた

「地球や月の周回軌道や
ラグランジュ・ポイント周辺は
日本の軌道自衛隊の管轄というか
守備範囲だから
ソルバルウが飛んでくるんだよ。
特にこういう帝国艦隊の宇宙基地でも
重要人物の会合なんかがあると
ああやって警護に来てくれてる。」


「そうなんですか・・・」

とそのときはなんとなく返事を返したが
何かがおかしい気がする。

警護っていったって
あんな物々しい大砲が付いた航宙機で
対応しなきゃならないような事態が
発生しうるっていう事なのだろうか。

それほど危険なものが
ここまでやってくる?
こんな地球の近くに?

一体どういうことなんだろう・・・・?




「あの、みなさんは
僕の姉と同じチームなんですよね?
それは一体
なんのチームなんでしょうか?」


「感応兵器部隊のチームだけど」

水瀬さんが答える。

「・・・感応兵器部隊?」



僕がまるっきり分かってないと察して
コーヒーを一口飲んでから
改めてこう言い直した

「『極東の魔女』って言葉を
聞いたこと無いかな?」

「あ、あります。
なんかテレビのニュースで
外国政府の偉い人が
何か怒ってる感じで時々聞きます。」


「あー、あれ、あの外人さんらに
魔女呼ばわりされて
難癖付けられているのが、私ら
『感応兵器部隊』」

「え、そうなんですか!?」

「うん」

僕が驚いていると菊池さんが補足した

「魔女じゃなくて巫女なんだけどねぇ?」


「巫女?巫女ってあの・・・」

「うん、そうだよ!神社にいるでしょ?
でも外人さんは巫女というのが
何なのかわからないのかなぁ?
私達は天翔ける巫女
宇宙にいる巫女なんだよ」

「はぁ・・・」

菊地さんがニッコリ笑って
『巫女なんだよ』
って説明してくれるのだが
ぼくには彼女が何を言っているのか
全然わからない。


「まぁ、わからんだろうなぁ。」

と水瀬さん。

「あの、巫女と宇宙が
どういう関係なんでしょうか?」


「いや、巫女と宇宙が
関係あるわけじゃなくてな
『念積体』は聞いたことあるかな?」

「はい、名前ぐらいは・・・」

「念積体っていうのは前の大戦
第三次世界大戦の
引き金にもなったぐらいの
強力なエネルギー関連に関わってくる
最重要戦略物質なんだがな?」

「はい・・・」

「まぁ、戦争するにもしないに
しても絶対欲しいやつ。
でも実は重要なのは
念積体そのものじゃなくて
その制御技術の方なんだわ、
つまり念積体だけあっても
とても使えない」

「ええ」

「で、その念積体をコントロールする
念積制御の核心部分の技術を
帝国艦隊が抑えていてな?
独占状態となっている」

「はい」

「その最重要の
極秘の制御技術を持ってして
念積体の面倒を見てるのが私達、
『感応兵器部隊』ってワケだ」

「はい・・・・・・えええ???」

「――ん?」

僕が戸惑う反応を見て
水瀬さんが首を傾げる

「あの・・・つまりみなさんが
念積体の制御のカギを握っている
というワケですか?」

「うん」

こともなげに水瀬さんが答える。

それって、なんていうか
ものすごく重要な役目ですよね?」

「うん、まぁ、重要といえば重要かな、
外国には出来ないし」

「そこにぼくの姉もいるんですか?」

「うん」

「感応兵器部隊・・・ですか・・・・・・」

聞き慣れない言葉を
なんとか飲み込もうと考えてみる、
しかし奇妙な部分があることに
引っかかった。

「え、・・・でも・・・さっきは確か、
宇宙の巫女とか・・・?」

「あー、そこな!
それに関しては説明が難しいんだけど
まぁとにかく、
私達が巫女さんパワーで
念積体を何とかしてるわけだ、フフフッ」

水瀬さんが自嘲気味に笑い
菊池さんも屈託なくクスクス笑う

でも確か念積体って
主要参戦国内なんかで戦争中に暴走して
クレーター湖が出来るほどの
大惨事を引き起こした
すさまじい兵器って
習ったと思うんだけども・・・。

 そうだ、未だにそのせいで
時空が歪んだままになっているなんて
怪談めいた事も言われるぐらいの
とんでもない超兵器だ。

・・・ホントに姉が
そんなものを扱っているのだろうか?

 ふたりがくすくす笑う様子からも
姉や今まで会った彼女らが
そんな恐ろしい物質を
コントロールしているなんて話は
にわかには信じられない、というよりも

僕の日常とかけ離れ過ぎてて
認識の接点がまったく見えない。

ぼくの姉が・・・・?

念積体の兵器を?・・・

制御している?・・・・



ホントに!? ――――







 





―――― つづく







 

~オカンとミキと、時々、ヤヨイ~
ザ・スターラスターガール
THE STAR LUSTER GIRL
 
 
 
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