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みきみきとだんちゃん 『おねえちゃんのへや』


「こんこんこんっ

かぁぁっこいいおねーさん

はいっても

いいですかっ!」 みきみきの部屋の前 だんちゃんの裏返った

ユーモラスな可愛らしい声が

廊下に響いて

家中どころか家の外の路地まで

聞こえている みきみきに

「おまえコンコンってノックして

『カッコイイお姉さん

入っていいですか?』」  ってちゃんと言わんと

開けちゃれへんぞ!」

と普段から

キッチリ言い聞かされているので、

今日もその通りにする ちなみに、

だんちゃんがなぜノックの音まで

クチで言うのかはわからない。 「こんこんこんっ

かぁぁっこいいおねーさん

はいっても

いいですかっ!」 そしてだんちゃんは

独特の節回しで叫ぶのである 「誰な」

中からお姉ちゃんの

気だるそうな声が聞こえる 「ヤヨイ」 「……ヤヨイって誰な」 「ヤヨ…くぅるぅまだんきちぃぃっ!」 だんきちと名乗らないと

相手にされないのを思い出して

慌てて修正する だんちゃん 「あー、だんちゃんか、なんの用な」 お姉ちゃんの反応があったので

叫び返す 「ごようあんの!」 「ご用って、なんの用な」 「ごようあんのッ!!」 「だからご用って、なんの用な!」 うー 答えに窮する だんちゃん 許可を待たずに

勝手に扉を開けることは

許されないのだ 扉の外でだんちゃんが、

ブツブツとなにやら

不平を訴えているのが

聞こえてくるが みきみきは

ベッドに仰向けになった姿勢で 週刊少年ジャンプを読むのに忙しい 今は読書の時間だ みきみきは

集中してマンガを読みたいのだ だんちゃんがとにかく

みきみきにかまって欲しいだけなのは

十分承知しているが 自分にだって自分の時間は必要だ 特に用のない者を

部屋に入れる義理はない。 「こんこんこんっ

かぁぁっこいいおねーさん

はいっても いいですかっ?」 また、だんちゃんが叫んだ 「誰な」 「くぅるぅまぁぁぁだーんーきーちっ!」 「あー、だんちゃんか、なんの用な」 「ごようあんの!」 「ご用って、なんの用な」 「ごよぉぉぉーあんのッ!」 少しキレ気味にだんちゃんが訴える 「おまえそんなこと言うて、

お姉ちゃんのこと泣かす気ぃーやろ」 お姉ちゃんの詰問が中から響いてくる 「なかせへーん!」 だんちゃんは必死で返答する 「おまえそんなこと言うて、

 入ってきてお姉ちゃんに

パンチやキックをする気ぃーやろ」 「せえぇへぇぇぇ~~ん!」 「『いっつもいっつも私のこと

泣かしやがって!  もぉおぉぉぉー今日という今日は

勘弁ならん!成敗ッ!』  とかゆうて  パンチやキックをお姉ちゃんに

いっぱいする気ぃーやろ!」 「せぇぇえへぇぇ~~~んっっ!」 「…………」 必死の訴えも虚しく、

入室の許可が下りないままの

沈黙が戻る 「こんこんこんっ

かっこいいおねーさん

はいっても いいですかっ!?」

だんちゃんはへこたれない 「誰な」 「くぅるぅまだんきちっ!」 「なんの用な」 「ごようあんの!」 「ご用って何の用な」 どんな用なのか、

だんちゃんには

言葉が思いつかないから

どうしようもない

「もうぉぉぉぉ~~

おねーちゃん!

はいってもいいですか!?」 泣き声じみたヤケクソ気味で

言い始めた どうやらだんちゃんは諦めそうにない 仕方がないので

みきみきはだんちゃんを

入れてやることにした 「…………入れよぉ!もおッ!」 するとお姉ちゃんの部屋の扉を

こそーっと開けて 小さなだんちゃんが嬉しそうに、

はにかみながら入ってくる お姉ちゃんはベッドに仰向けになって

少年ジャンプを読んでいる 部屋に入ったからといって

特にすることはないのだが だんちゃんは、とにかく嬉しい 部屋の中を

キョロキョロと見回している。 お姉ちゃんにきつく

言いつけられているので だんちゃんはお姉ちゃんの留守に

この部屋に勝手に入ることはない それはお姉ちゃんの部屋には

オバケがいると 信じ込まされているせいでもある。 おねえちゃんは『サキエル』と称して クチバシの付いた白いお面をかぶって

普段からだんちゃんを

追いかけ回しているので 非常に真実味がある。 そういうわけで 普段入ることの許されない お姉ちゃんの部屋は新鮮な空間であり そこに正式に許可を得て

入室した自分は

特別なのだと実感して

そわそわワクワクする しかしキョロキョロ部屋を

見回していただんちゃんが 急にビクッとその視線を止める その棚の上にはマンガ道具として

みきみきが雪歩と

一緒に購入したものの 本来の意味では

あまり役に立っていない 全高20センチほどの

木製のデッサン人形が置かれていた 大人が見れば

なんてことはない人形でも 目も鼻もないその形容は

ちびっこのだんちゃんにとって 著しく不気味なものであり そして以前 「あれこわい」 とお姉ちゃんに訴えたところ 「あれはなー、

人が起きている間は動けへんけど  夜にみんなが寝たあとになー、

知らん間ぁーになー

 スーっと動き出して寝ている人の

カラダの肉を少しずつ齧り取ってなー  その肉や骨で

自分のお家を作ったりする

こーわいオバケなんやでー?  でもなー、お姉ちゃんがなー

動かんようになぁ

 『コラーッ!!』って

見張ってるから お母ちゃんも

だんちゃんも

食べられやんで

済んでるんよ」 と教えられた恐ろしいなにかなのだ。 部屋の一点を見つめて静止した

だんちゃんの

その一瞬の異変を

みきみきは見逃さなかった だんちゃんが不安になって

お姉ちゃんの方を見やると お姉ちゃんは

獲物を見つけた野良猫のように

両目をカッと見開いて

薄ら笑いを浮かべながら だんちゃんを見据えていた

反射的に 「いやら!」 だんちゃんが声を漏らした瞬間 お姉ちゃんは

甲高い裏声を使って叫んだ! 「こぉぉぉぉぉよぉおぉぉぉぉ

おぉぉぉぉぉぉおおおん!!!!」 この『こーよーん』というのは

『こわいよー』を意味する

みきみきとだんちゃんの言葉で そのまま危険に対する

非常警報を意味する。 「いやらーー!!」 「こぉぉぉぉぉよぉおぉぉぉぉ

おぉぉぉぉぉぉおおおん!!!!」 みきみきが寝転がった姿勢から

ガバッと体を起こし始めたのを見て 危険を察知した だんちゃんは

文字通り脱兎のごとく

部屋から飛び出していった それをデッサン人形をひっつかんで

猟犬のように追いかけていく みきみき

だんちゃんの運命やいかに!? ────つづく

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