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春香「どこにおってもわかるんじゃ!」


Photo-ajari

「みっきゃん」

「この刀の事、知ってらなぁ?」

見晴らしの良い丘の上

水平線がぼんやり光る夜の闇の中

黒い鞘の刀を携えて立つ春香が

遠くを見つめ何気につぶやいた。

夏草の斜面を撫で来る静かな風が

ときおり焚き火の炎を

ボゥボゥと低く唸らせ

それに照らし出された春香の

『帝国艦隊』

と背中に書かれた

青いジャンプスーツは

真っ赤に燃えているように見えた。

「三池典太光世っちゅーんやろ?

昔のすごい刀匠が作った刀で

なんか剣に魂が乗り移り、

魔を追い払う能力を持つとか

ゆわれとるやつ。」

美希は炎で火照る顔を我慢して

目を細めながら

焚き火の様子を座って見ている。


「うん」

静かにうなずく

春香の遠く向こう側には

海辺に立つ巨大なロケット発射台が

ライトに照らされて

戦士を祀ったモニュメントのように

幽玄と水平線を遮って

浮かび上がっている。

「それって買うたら

だいぶ高いもんなん?」

「めちゃくちゃ高いぞ

国の文化財扱いやからな

たぶんこれ一振りで余裕で豪邸建つ」

「マジか!おまえ

そんな高いもん持ち歩いてたんか

おまえそれ、よー盗まれへんなぁ?」

美希が焚き火に木をくべると

舞い上がった火の粉が

放射冷却で冷え切った夜空へと

吸い込まれていく

「盗めやんやろ。

念積操作に使ってる刀やぞ

もし盗まれても

どこにいったかすぐわかるわ

とりあえず盗もうとしたやつは

両手とも切り落としたる。」

「怖いなぁー、もうあれか

その刀も亜生物化とかしてんのか?」

「んー、わからんけど・・・

そうなってても

おかしくないわなぁ。」

二人が佇むこの丘には誰の人影もなく

二人のシルエットだけが

炎に照らされて揺れていた。

「もし・・・

なんかあったら

おまえにこいつを預けとくわ」

「わたしにくれんのか?」


「ちゃうわ」

「みっきゃんがこれを持ってたらなぁ

もしみっきゃんが

宇宙でおらんなっても

誰にも分からんところにおっても

私には

どこにおるかが分かるんじゃ!

そういうことじゃ」

春香の言いたいことが

わかったのかわかってないのか

たぶんサッパリわかってないと

思われる美希だが

その真剣な様子に

コクコクとただ頷いた。

それを見届けると

再び漆黒から不安げに色づく

水平線に視線を戻して

春香がささやく。

「誰がなんと言おうとなー」

「みっきゃんは

おらなあかん人間なんじゃ

それ忘れんなよ。」


その声は

パチパチと爆ぜる焚き火の音や

遠く海からかすかに響く

船の汽笛の風音と混ざって

再び何事もなかったように

辺りを包む闇と同調していった。

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